企業活動においては産業廃棄物が必ず発生します。その処理は多くの場合、産業廃棄物収集運搬業者に委託するのが一般的ですが、「自社運搬」という選択肢もあります。
本記事では、産業廃棄物の自社運搬について、許可の要否や法律上の定義、注意すべきポイント、メリット・デメリットなど様々な視点を踏まえて詳しく解説します。
自社運搬を検討している企業担当者、総務・環境管理のご担当者は必見の内容です。

産業廃棄物の自社運搬とは?
産業廃棄物の「自社運搬」とは、排出事業者(産業廃棄物を発生させた企業等)が、自らの責任でその廃棄物を収集・運搬し、処理施設まで運ぶことを指します。
これは「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」で明確に認められている行為です。
他者に委託せず、自社の車両・人員を用いて運搬を行い、委託契約や運搬業者の許可取得が不要となる一方、法令遵守と安全管理が強く求められます。
法令根拠は以下になっています。
【根拠条文】廃棄物処理法第12条第1項
「事業者は、自らその産業廃棄物を処理するか、または適正な許可を受けた者に処理を委託しなければならない」
この条文は、「排出事業者責任」を定めたものであり、自社で処理・運搬する場合にも法的義務が課されていることを意味します。
自社運搬はこの条文の「自ら処理する」に該当し、適切な方法での運搬・処理を行えば、収集運搬業の許可を取得せずとも可能です。
自社運搬に許可は必要?
産業廃棄物の運搬と聞くと、「収集運搬業の許可が必要なのでは?」と疑問に思う方が多いでしょう。
実際、産業廃棄物の運搬には厳しいルールが定められており、許可なしでの運搬は原則禁止されています。
しかし、排出事業者自身が産業廃棄物を運ぶ「自社運搬」の場合には、一定の条件を満たせば許可は不要です。以下でその詳細を解説します。
【結論】自社運搬に収集運搬業の許可は原則不要
多くの方が気にするポイントが、「自社運搬でも収集運搬業の許可が必要かどうか」です。
結論として、自社運搬に限っては収集運搬業の許可は原則不要です。
ただし、これは無条件ではなく、法律で定められた「自社運搬に該当する4つの条件」をすべて満たしている場合に限られます。
許可不要となる4つの条件
- 自社で発生させた産業廃棄物であること
→ 排出事業者自身が廃棄物の所有者であることが前提です。 - 自社が保有する車両で運搬すること
→ リース車や他社の車両ではなく、ナンバー登録も含めて自社所有である必要があります。 - 自社の従業員が運搬を行うこと
→ 外部委託やアルバイト等に任せることは不可です。 - 運搬先が自社の処理施設または正規の処分業者であること
→ 契約済みで、許可を得た産業廃棄物処分業者に限られます。
上記のいずれか一つでも欠ける場合には、産業廃棄物収集運搬業の許可を取得する必要があります。
特に車両や人員の要件で見落としが発生しやすいため、運用前に一度チェックリストなどで確認することをおすすめします。
自社運搬のメリットとデメリット
産業廃棄物の自社運搬には、コスト面や業務効率の向上といったさまざまなメリットがあります。
一方で、法令遵守や安全対策など、注意すべきデメリットやリスクも存在します。
ここでは、自社運搬を検討する上で知っておくべきポイントを、メリット・デメリットの両面から解説します。
自社運搬のメリット
コスト削減
産業廃棄物収集運搬業者へ委託する場合、運搬費・契約手数料・管理費などのコストが発生します。
自社運搬ではこれらの外注費用が不要となるため、長期的には大幅なコスト削減が見込めます。
即日対応が可能
廃棄物が発生したその日のうちに運搬・処理を行うことができるため、作業現場の衛生環境や作業効率が改善されます。
とくに、廃棄物の一時保管スペースに制限がある場合には、自社運搬の即応性が大きな強みとなります。
柔軟なスケジューリング
自社の業務スケジュールに合わせて運搬時間を調整できるため、業務の流れを止めずに廃棄物処理を行うことが可能です。
繁忙期や短納期の案件でも、柔軟に対応できる運搬体制を構築できます。
自社運搬のデメリット
自社運搬には多くのメリットがある一方で、体制整備や法令遵守の責任が自社に集中するため、いくつかの注意点やデメリットも存在します。
車両・人材の確保と維持管理が必要
産業廃棄物の運搬には、適切な車両(保有・管理)や、法令に精通した運転者・作業員の確保と教育が必要不可欠です。
車両の購入・整備、人材の採用や研修といった初期投資や運用コストも無視できません。
自社による適正管理が求められる
自社運搬では、すべての運搬責任が排出事業者自身にあるため、以下のようなリスクにも十分注意する必要があります。
- 誤搬入や運搬先の間違い
- 過積載による道路交通法違反
- 運搬中の荷崩れ・飛散・漏洩などの事故発生
これらの問題が起きた場合には、行政指導や罰則、社会的信用の失墜につながるおそれもあります。
見えにくい運用コストが発生する
一見「コスト削減」と見える自社運搬ですが、実際には以下のような運用コストが継続的に発生します。
- 積み込みや運搬にかかる人件費
- 運搬に必要な燃料費・高速料金・保険料
- マニフェスト管理や運搬記録などの事務負担
特に、運搬回数が多い場合や遠方への運搬が必要な場合は、外部委託の方がコスト・効率両面で有利となるケースもあるため、事前のシミュレーションが重要です。
このように、メリットだけでなくデメリットも正確に把握し、自社の体制や目的に応じて判断することが、自社運搬導入の成功のカギとなります。
自社運搬で必要な表示・管理事項
産業廃棄物を自社で運搬する場合でも、廃棄物処理法に基づく「表示義務」が課せられます。
これは、周囲の第三者が運搬中の車両の内容を把握できるようにするための安全対策でもあります。
【義務】運搬車両への表示(ステッカー等)
法律では、自社運搬車両であっても、以下の項目を車両の両側面など第三者から見えやすい場所に表示することが求められます。
表示すべき内容(例):
- 「産業廃棄物自社運搬車両」の文言
- 排出事業者の会社名および連絡先
- 運搬する産業廃棄物の種類(例:廃プラスチック類、金属くず 等)
※表示は一時的なマグネット式でも構いませんが、落下や消耗に注意が必要です。
【補足】ステッカーのサイズ・色のルールについて
現時点で、表示文字のサイズや色、フォントの指定は法令上明確には定められていません。
しかし、実務上は以下のような基準を満たすことが望ましいとされています。
- 第三者が容易に識別できる大きさ・色使い(例:白地に黒文字、黄色背景など)
- 車両の左右両側に貼付する
- 雨や風でも読める耐久性のある素材を使用
このような表示義務を怠った場合、行政指導や罰則の対象となる可能性があります。
適切な表示は、法令遵守だけでなく地域社会との信頼関係を守る上でも重要です。
自社運搬における注意点【実務編】
自社で産業廃棄物を運搬する際には、法令だけでなく、現場での運用面における注意点も多く存在します。
ここでは、特に見落とされがちな重要ポイントを3つの実務項目に分けて解説します。
1. 電子マニフェストの登録は必要?
A:必要です。
自社運搬であっても、外部の中間処理場・最終処分場へ廃棄物を運ぶ場合には、必ずマニフェスト(産業廃棄物管理票)の交付義務があります。
電子マニフェスト(JWNET)もしくは紙マニフェストのいずれかで対応可能です。
マニフェストの記録・保存期間(5年間)にも注意が必要です。
※自社の構内で完結する「場内運搬」のみの場合は、マニフェスト交付は不要です。
2. 積替え保管は禁止
A:原則、禁止されています。
自社運搬の途中で、営業所や倉庫などの中継地点に産業廃棄物を一時的に保管する行為は、法令で禁止されています。
これはたとえ自社の施設内であっても同様です。
- 積替え保管を行うには、「積替え保管の許可」を取得した施設である必要があります。
- 無許可で保管した場合、重大な法令違反として処分の対象となります。
3. 処分場までの距離に注意
処分場が遠方にある場合、自社運搬による以下のような実務的デメリットが発生します。
- 長距離運搬による燃料費・高速代の増加
- ドライバーの拘束時間増による業務効率の低下
- CO₂などの温室効果ガス排出量増加による環境負荷
状況によっては、許可業者への収集運搬委託の方がコスト面・環境面ともに合理的となるケースもあります。
以下の記事も併せてご一読ください。ゴムクローラーを収集運搬する際の注意点について解説しています。
自社運搬に適した産業廃棄物の種類とは?
すべての産業廃棄物が自社運搬に適しているわけではありません。
物理的な性質や、管理義務の厳しさに応じて、自社運搬が向いているもの・向かないものがあります。
以下に代表的な産業廃棄物を例に、その適性を一覧表にまとめました。
種類 | 自社運搬に向くか | 理由 |
---|---|---|
廃プラスチック類 | ◎ | 比較的軽量で、破損や漏洩のリスクが低いため |
金属くず | 〇 | 自社処理しやすいが、重量による積載制限に注意が必要 |
汚泥 | △ | 水分が多く、密閉容器での運搬や適切な封じ込めが必要 |
燃え殻・ばいじん | ✕ | 飛散しやすく、厳格な運搬・保管管理が求められる |
特別管理産業廃棄物 | ✕ | 有害性が高く、自社運搬には厳格な許可と管理体制が必要 |
自社運搬と収集運搬業者への委託の比較
産業廃棄物の運搬方法としては、自社運搬と収集運搬業者への委託の2つの選択肢があります。
それぞれにメリット・デメリットがあり、自社の業務形態や体制によって最適な方法が異なります。
以下に、主要な判断項目ごとの比較をまとめました。
項目 | 自社運搬 | 業者委託 |
---|---|---|
許可 | 不要(一定条件を満たす場合) | 必須(産業廃棄物収集運搬業の許可) |
コスト | 〇:人件費・燃料代など自社コントロール | △:委託料や契約費が発生 |
スケジュールの柔軟性 | ◎:自社の業務都合に合わせやすい | △:業者側の都合に依存する場合がある |
管理責任 | ◎:すべて自社で責任を負う | △:業者と責任分担される |
安全性・法令遵守 | △:教育・体制構築が必要 | ◎:法令に精通した専門業者が対応 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 自社運搬の際、ドライバーに特別な資格は必要ですか?
A. 国家資格は不要ですが、社内での安全教育と記録が必要です。
自社運搬にあたって、廃棄物処理のための特別な国家資格(例:産廃講習修了など)は不要です。ただし、事故や法令違反を防ぐために、社内での教育実施とその記録の保存が強く推奨されます。
また、運転する車両の種類に応じた運転免許(例:大型免許・中型免許など)は当然必要です。
Q2. 積替え保管はどこまでが違法になるのですか?
A. 一時的な停車・休憩は問題ありませんが、「荷下ろし」すると違法です。
運搬中の一時的な停車・トイレ休憩・給油などは合法ですが、運搬物を倉庫や敷地内で一度降ろして保管・再積み込みする行為は「積替え保管」に該当し、許可がない限り違法となります。
Q3. 自社で処分場を持っている場合、どこまで自社運搬が可能ですか?
A. 許可を受けた処理施設(中間処理場・最終処分場)まで運搬可能です。
自社が処分場(中間処理・最終処分)を保有している場合、その許可範囲に従って自社運搬が可能です。
ただし、処理施設で受け入れ可能な産業廃棄物の種類・量・性質については、許可証の内容に従う必要があるため、事前の確認が必須です。
自社運搬が向いている企業の特徴
自社運搬が効率的かつ現実的に機能するためには、企業側にも一定の体制や運用能力が求められます。
以下のような特徴を持つ企業は、自社運搬の導入・運用に向いているといえるでしょう。
- 複数の事業所が近隣エリアに集中しており、日常的に廃棄物が発生している
- 産業廃棄物の種類・排出量が把握できており、自社で適切に管理可能
- 環境管理・衛生管理部門があり、法令遵守体制が整っている
- 収集運搬業者への委託コストを削減したいという経営判断がある
自社運搬を成功させるポイント
産業廃棄物の自社運搬を安全かつ適正に行うためには、事前準備・運用ルール・教育体制の3点が鍵となります。
ここでは、自社運搬を導入・継続していく上で欠かせない実務ポイントを解説します。
運搬ルート・処分先の明確化
自社運搬を行う際は、事前に「運搬ルート」と「処分先施設」の調査・調整を行うことが必須です。
- 処分場までの最短かつ安全なルートを事前に設定
- 交通状況や道路幅などのリスク確認(大型車が通れるか など)
- 搬入時の受け入れ時間、必要書類、注意点などを処分業者と共有
トラブルを避けるためにも、処分業者とは事前に連携・確認を徹底しておくことが重要です。
社内教育の実施と継続
自社運搬の成否を大きく左右するのが、ドライバーを含む関係者への教育と意識向上です。
特に、以下の教育内容を年1回以上の定期的な研修として実施することが推奨されます。
- 廃棄物処理法や道路交通法の基礎知識
- 安全衛生に関する教育(荷崩れ防止・過積載防止など)
- 緊急時対応訓練(事故時の連絡・処理フロー など)
また、現場のドライバーには、**単なる作業者ではなく「法令順守の最前線を担う存在」**であるという意識を持たせることが大切です。
継続的な教育と実地訓練の実施
特に下記のような事故・違反リスクを防ぐために、繰り返しの訓練・注意喚起が必要です。
- 過積載による道路交通法違反や処罰
- 荷崩れ・飛散による第三者被害や通報
- 不適切な積み込みによる事故や運搬トラブル
「一度教えれば終わり」ではなく、実務に根ざした教育の継続が信頼される自社運搬の実現に繋がります。
まとめ:自社運搬の理解と適正運用がカギ
産業廃棄物の自社運搬は、法令で認められた正当な手段であり、うまく活用すればコスト削減・業務効率化・環境改善といったメリットをもたらします。
一方で、表示義務やマニフェスト管理、積替え保管の禁止など、守るべきルールも厳格に定められており、安易な運用は法令違反につながるリスクもあります。
自社運搬を成功させるためのポイント
- 自社で発生・自社の車両・従業員・処分先が正規施設であること(4要件)
- マニフェストの交付義務(電子・紙のいずれか)
- 表示義務(自社運搬車両)や法令遵守の教育体制
- 向き不向きの判断(廃棄物の種類や発生状況、距離など)
自社運搬は、自社の体制や事業内容に応じて最適に活用すれば、法令順守のもとでのコスト効率の高い運搬手段となります。
導入前にはぜひ、この記事で紹介したポイントや注意事項を確認し、確実な準備と社内体制の整備を進めましょう。
株式会社オーシャンなら収集運搬から処分まで一括して対応しています
株式会社オーシャンでは「産業廃棄物処分業」の許可に加えて「産業廃棄物収集運搬業」の許可も取得しているため、回収から処分まで完結できます。排出者であるお客様は弊社までお電話をいただければ私たちが回収に伺い、積み込みから弊社作業員にて行わせていただきますので、お客様には一切お手間はいただきません。
詳しくは以下をご参照ください。