
ヨーロッパでは近年、廃タイヤやゴムクローラーなどのゴム製品を「資源」として再利用する循環型社会の仕組みが急速に進化しています。
日本でも「廃棄物処理法」に基づき適正処理が義務付けられていますが、欧州ではさらに一歩踏み込んで、廃棄物を“資源化前提”で設計・回収・再利用する仕組みを政策として確立しています。
本記事では、特にゴムクローラーやタイヤのリサイクルに関連する欧州の制度・技術・企業の取り組みを中心に、以下の3つの視点から解説します。
- EU全体の政策動向(循環経済行動計画を中心に)
- ドイツ・スウェーデンにおける先進的な技術事例
- 日本の現状との比較と今後の課題
EUが推進する「循環経済行動計画(CEAP)」とは?
欧州連合(EU)が2020年3月に公表した「Circular Economy Action Plan(循環経済行動計画、以下CEAP)」は、製品の設計から廃棄までを通じて資源の循環を最大化することを目的とした包括的政策です。
CEAPは「欧州グリーンディール(European Green Deal)」の柱の一つとして位置づけられており、持続可能な製品設計・再利用・リサイクル・廃棄物削減の促進を通じて、2050年のカーボンニュートラル達成を目指しています。
この中で特に注目されるのが、自動車やタイヤなど資源集約型製品の循環経済化です。
CEAPで重点的に扱われる分野とタイヤの位置づけ
CEAPでは、以下のような資源消費が多く循環ポテンシャルの高い分野が重点領域として挙げられています。
- 電子機器・ICT
- バッテリーと車両
- 包装材
- プラスチック
- テキスタイル(繊維)
- 建設資材・建築物
- 食品・水・栄養分循環
この中に「タイヤ」は明記されていませんが、自動車・バッテリー分野に含まれる形で、間接的に重要な位置を占めています。
特にEUでは、使用済みタイヤ(End-of-Life Tyres:ELTs)のリサイクル・再利用・再資源化が、循環型社会の実現に向けた主要テーマとして位置づけられています。
タイヤ分野に関連するCEAPの主要政策
持続可能な製品設計の義務化(Sustainable Product Initiative)
CEAPでは「すべての製品を持続可能な設計にする(Make sustainable products the norm)」という方針を掲げ、エコデザイン規制(Ecodesign for Sustainable Products Regulation:ESPR)の導入を進めています。
これにより、タイヤ製造企業も以下のような対応を求められるようになります。
- 長寿命・再利用・再生可能な素材の使用
- 摩耗やマイクロプラスチック排出の低減
- 修理・再生(リトレッド)しやすい構造設計
- 再生材・リサイクルゴムの積極的な採用
つまり、設計段階から循環性を内包したタイヤ設計が今後のEU市場参入条件の一つになると考えられます。
廃棄物から資源へ|使用済みタイヤ(ELTs)のリサイクル促進
EUでは、使用済みタイヤを単なる「廃棄物」とせず、「二次原料(Secondary Raw Materials)」として再利用する仕組みを整備しています。
CEAPはこの動きを後押しし、次のような方向性を打ち出しています。
- 「End-of-Waste(EoW)基準」により、再生ゴムや鉄素材を「廃棄物でなくなる基準」に設定
- ELT由来ゴムの再利用(舗装材、人工芝、吸音材、燃料代替など)を推進
- 再資源化市場の透明性・品質管理制度を導入
実際、欧州委員会では「EU域内でのELT由来ゴムのEnd-of-Waste認定」に関する議論が進行中であり、リサイクル事業者・再生材メーカーにとって新たな市場機会となっています。
マイクロプラスチック・摩耗粉対策
CEAPは「ゼロ汚染行動計画(Zero Pollution Action Plan)」とも連携しており、タイヤ摩耗粉によるマイクロプラスチック汚染を重要課題として扱っています。
EU環境機関(EEA)の報告によると、道路由来マイクロプラスチックの約30〜40%がタイヤ摩耗粒子であるとされ、以下のような取り組みが進められています。
- 摩耗低減性能を考慮したエコデザイン評価基準の導入
- タイヤ摩耗粒子の測定法・標準化(CEN/ISOレベル)
- 消費者向け**タイヤラベリング制度(耐摩耗・転がり抵抗・燃費表示)**の強化
この流れにより、「環境性能」もタイヤ選定の新しい競争要素となりつつあります。
天然ゴム・カーボンブラックなど素材の循環化
CEAPと並行して進む「クリティカル原材料戦略(Critical Raw Materials Act)」では、天然ゴムが戦略的資源に位置づけられています。
EUではタイヤ製造に欠かせない天然ゴムやカーボンブラックの一部を再生素材(リサイクル由来)で代替する動きが進展中です。
そのため、タイヤリサイクル業界では以下のような再資源化技術が注目されています。
| 技術名 | 概要 | 主な用途 |
|---|---|---|
| デバルカナイズ(Devulcanization) | 加硫ゴムを再利用可能な状態に戻す技術 | 再生ゴム製品、リトレッド材 |
| 熱分解(Pyrolysis) | 無酸素加熱によりゴムを油・カーボンブラック・スチールに分解 | 燃料・原料再生 |
| 超臨界流体分解 | 高温高圧の超臨界水で分解し、純粋な油分や炭素を回収 | 高純度リサイクル材 |
これらの技術開発は、CEAPの掲げる「再生材の市場価値向上」に直結しており、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスです。
EUタイヤ業界の対応|ETRMAによる提言
欧州タイヤ・ゴム製造業者協会(ETRMA)は、CEAPに呼応して次の方針を表明しています。
- 使用済みタイヤを「廃棄物」ではなく「資源」として扱う法的明確化
- 再生タイヤ(リトレッド)市場の活性化
- タイヤ摩耗粉対策の国際標準化
- 天然ゴムの持続可能な調達ルール(サプライチェーン管理)
- 循環型製造・リサイクル産業の研究投資拡大
つまり、CEAPを単なる環境規制ではなく「産業政策」として捉える動きが進んでおり、技術革新とサステナブル経営が一体化している点が特徴です。
EU内での各国の具体的な動き

ドイツのゴム再資源化技術と政策支援
ドイツはEU内でも特に「廃ゴム再生技術のハブ」といわれる国です。
その理由は、環境政策・リサイクルインフラ・研究開発が三位一体となっているためです。
メカニカルリサイクルの高度化
ドイツでは、タイヤやゴムクローラーを破砕・粉砕し、ゴム粉(クラムラバー)として再利用する技術が普及しています。
これらは道路舗装材、人工芝、建設用マットなどに再利用されています。
近年では、低温粉砕(cryogenic grinding)技術により、ゴム成分を劣化させずに分離できるようになっています。
これにより「新製品への再配合(リファイン)」が可能になり、リサイクル率が大きく向上しました。
しかしコスト面で課題が残っており、高精度でのマテリアルリサイクルでの利用などが一般的です。
脱硫・再加硫技術(Devulcanization)
ドイツのFraunhofer研究所では、廃ゴムの架橋構造を化学的に切断する脱硫技術が開発されています。
このプロセスにより、再び加硫可能な「リサイクルゴム」を製造することができます。
この技術は、将来的にゴムクローラーや重機用履帯にも応用可能とされており、建設・農業機械メーカーも実証研究を始めたりしています。
政策的支援と補助金制度
ドイツ連邦環境庁(UBA)は、以下を取り組んでいます。
- 再資源化率の高い企業に対する税制優遇制度の設計
- リサイクル施設新設への補助金の支給
- 脱硫・再加硫実証試験への研究助成補助
など、民間技術開発を積極的に支援しています。
この環境政策の充実が、ドイツを“循環型リサイクル技術の先進国”へ押し上げている大きな要因です。
スウェーデンにおける熱分解・油化の実証研究
スウェーデンでは、廃タイヤ・廃ゴム類を熱分解によって油化し、エネルギーや化学原料として再利用するプロジェクトが進行中です。
代表的なのが、環境技術企業「Enviro Systems AB(スウェーデン・イェーテボリ)」の取り組みです。
Enviro Systemsの技術概要
- ゴムを350~700℃で熱分解し、炭化黒鉛・ガス・油分を分離
- 回収された**再生カーボンブラック(rCB)**は新しいタイヤや工業ゴム製品に再配合可能
- 残りのガスは燃料として施設内で再利用し、CO₂排出を60%以上削減
同社は2023年にドイツ・ミシュラン社と提携し、ヨーロッパ初の商業スケール廃タイヤ油化プラントを建設しました。
この技術は、将来的にゴムクローラーにも応用可能とされています。
欧州の廃棄物法制と日本との違い
欧州では「Waste Framework Directive(廃棄物枠組み指令)」により、すべての廃棄物処理が「再使用 → リサイクル → エネルギー回収 → 最終処分」の優先順位で行われます。
一方、日本では「廃棄物処理法」に基づく安全・適正処理が主眼であり、再資源化は民間主導に委ねられることが多いのが現状です。
欧州と日本の比較表
| 項目 | 欧州(EU) | 日本 |
|---|---|---|
| 基本方針 | 資源循環の義務化 | 適正処理の確保 |
| 生産者責任 | 拡大生産者責任(EPR) | 努力義務(リサイクル法対象のみ) |
| 行政支援 | リサイクル施設補助・税優遇 | 限定的補助金制度 |
| 技術革新 | 公的研究機関と企業連携 | 企業・自治体単位で個別進行 |
ゴムクローラー分野への応用可能
欧州の技術は、単にタイヤリサイクルに留まらず、ゴムクローラーなどの産業用履帯にも応用が進む可能性があります。
- ドイツでは建設機械部品メーカーが再生ゴム研究に参加
- スウェーデンでは農業用クローラー材の再生利用実験
- イタリアでは廃ゴムから再生エラストマーの試作
これらの成果は、重量物で金属芯を含むゴムクローラーでも、機械分離+化学再生の二段階処理が可能であることを示しています。
まとめ|タイヤ・ゴムクローラー再資源化の未来は「欧州モデル」にある
欧州のゴム再資源化は、単なるリサイクルではなく「経済と環境の融合モデル」です。
- ドイツは「再生素材の品質保証」と「技術支援」で前進
- スウェーデンは「エネルギー回収と炭素削減」で進化
- EUは「法規制と経済循環を連動させた政策」で統合
日本におけるゴムクローラーの再資源化も、これらのモデルを参考にすることで、
「廃棄物から資源へ」「環境コストから事業価値へ」という転換が現実味を帯びてきます。
リサイクル技術や法律や日進月歩であり、常に情報収集することで情報をブラッシュアップしていきましょう。
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