ゴムクローラー(ラバートラック)は、建設機械や農機に使用される部品として広く認知されています。しかし近年では、建設業だけでなく、農業、林業、産業ロボット、スマート農業、災害対応、水産業、観光産業、軍事分野といった幅広い領域で採用が進んでいます。
その背景には、以下のようなゴムクローラー特有のメリットがあります。
- 地盤を傷めにくい(低踏圧)
- 低騒音・低振動で環境負荷が小さい
- 雪・泥・砂などの軟弱地盤でも高い走破性を発揮
- タイヤよりも段差乗り越え性能が高く、倒れにくい
- 小型機械でも安定した牽引力が得られる
これらの特性が高く評価され、2020年代に入ってからは、特に 自律走行ロボット(AGV・AMR・UGV) や スマート農業機器 での採用が急速に増えています。
本記事では、最新の公開情報を基に、建設機械以外で利用が広がるゴムクローラーの用途を、業界別に詳しく解説します。
第1章|建設機械以外で急拡大するゴムクローラーの用途一覧
建設機械以外での代表的な用途は次のとおりです。
- 農業機械(スマート農業機器を含む)
- 林業機械・山林作業車
- 産業ロボット(AGV/AMR/UGV)
- 災害対応ロボット・防犯ロボット・EOD車両
- 水産業・畜産業の専用車両・清掃ロボット
- 観光・レジャー用の走行車両(雪上/砂地/ビーチ)
- 測量・土質調査・インフラ点検ロボット
- 大型地上ドローン(Ground Drone)・点検支援車両
以下、各分野ごとに詳しく解説していきます。
第2章|農業機械での利用拡大|“スマート農業” が大きな追い風に
2-1 農業分野でゴムクローラーが評価される理由
農地は雨や土質により地面が柔らかく、一般的なタイヤでは沈み込みやすい環境です。
ゴムクローラーは接地面が広く、以下のメリットがあるため農業での採用が年々増加しています。
- 湿田・軟弱地盤でも走行可能
- 圃場を傷めにくい(踏圧が小さい)
- 牽引力が高く、重量物の運搬に強い
- 道路走行でも騒音が小さい
2-2 代表的な農機での採用例
- トラクター
- 田植機
- コンバイン
- 運搬車(クローラーダンプ)
- 畑作業台車
- 果樹園用搬送車
2-3 スマート農業(自律走行農機)での採用急増
近年特に伸びているのが 自律走行/半自律走行の農業ロボット です。
- 自動草刈り機
- 圃場監視ロボット
- 自動収穫支援ロボット
- 果樹園用無人搬送車
- 農薬散布地上ロボット
自律走行ロボットは転倒リスクを下げるため、タイヤよりも安定性の高いクローラーが選ばれやすいという特性があります。
農林水産省の「スマート農業加速化実証プロジェクト」でも、クローラー式ロボットの採用例が複数確認されています。
第3章|林業分野|山間地での走破性が評価される
林業機械は傾斜地・未舗装地を走行するため、ゴムクローラーの性能が非常に適しています。
3-1 採用例
- 林内作業車
- スキッダ
- フォワーダ
- 集材用キャリア
- 下刈り作業ロボット
3-2 採用が進む理由
- 急斜面でも安定した走行が可能
- 路面を傷つけにくいため環境負荷が小さい
- 荷重が大きくても沈みにくい
- 木質バイオマス収集など重量需要の増加
林業はICT活用が急速に進んでいるため、今後はロボットの活用とともにゴムクローラー需要が増えると予測されています。
第4章|物流・工場内の産業ロボットにもクローラーが採用され始めている
4-1 AGV・AMRの分野でクローラー採用が増加
従来の工場内自律搬送ロボット(AGV・AMR)はタイヤ式が主流でした。しかし近年は次の理由からクローラー式が増えています。
- 重量物搬送ではクローラーの方が安定
- 小型ロボットでも高い牽引力
- 段差越え・スロープ走行に強い
- 密閉工場・防爆エリアなどでもスリップしにくい
4-2 採用例
- 重量物搬送ロボット(1t〜2t級)
- 工場点検ロボット
- センサー搭載の巡回ロボット
- クリーンルーム内の点検用ロボット
クローラー式の産業ロボットは、電動化・IoT化を背景に年々増加しています。
第5章|災害対応ロボット・防犯・軍事用途|瓦礫上の移動に強い
5-1 災害対応ロボット(レスキューロボット)

出典:東京消防庁HP
地震・土砂災害・建物倒壊現場では、瓦礫が散乱し地盤が不安定です。
そのため、災害ロボットは ほぼ必ずクローラー式 が採用されます。
【用途例】
- 瓦礫内探索ロボット
- 生存者探索ロボット
- 道路状況確認ロボット
- 遠隔操作型カメラ車両
5-2 爆発物処理(EOD)ロボット
海外では警察・軍隊で多数採用されています。
階段・段差・瓦礫の上を走破できるため、ゴムクローラーが標準的。
5-3 防犯・警備ロボット
ショッピングモール・大型倉庫・空港の巡回ロボットにもクローラー式が採用されつつあります。
第6章|水産業・畜産業|屋内外で使える特殊車両が増えている
6-1 水産分野での採用例
- 養殖場のえさ撒き車
- 水揚げ場の搬送キャリア
- 海面養殖の監視ロボット
床面が濡れた環境でもスリップしにくいため採用されやすい特徴があります。
6-2 畜産分野での採用例
- 飼料運搬車
- 自動清掃ロボット
- 植生管理ロボット
畜産施設の床は泥・水・糞尿など滑りやすいため、クローラー式が安定性で優位です。
第7章|観光・レジャー分野|砂地・雪上での利用
7-1 スノーアクティビティ
- 雪上車
- スノーモービル代替機
- 冬季観光地の移動車両
7-2 砂地・ビーチ用途
- ビーチ清掃車
- 観光地の砂地走行アクティビティ車両
- 砂漠地域の巡回車両(海外)
高い走破性がレジャー用途でも評価されています。
第8章|測量・インフラ点検・地質調査ロボットへの利用が急増
国土交通省・鉄道会社・電力会社などインフラ事業者が、点検ロボットを導入するケースが増加。
その多くにゴムクローラーが採用されています。
【採用例】
- トンネル点検ロボット
- 橋梁点検ロボット
- 河川・護岸の点検ロボット
- 斜面監視ロボット
- 地質調査用UGV
段差や不整地での安定走行が求められるため、クローラー式が最適とされています。
第9章|大型地上ドローン(UGV)での採用も加速
近年は空中ドローンではなく、地上を走行しながら点検や散布を行う Ground Drone(グラウンドドローン) が増加しています。
【主な用途】
- 農薬の地上散布
- LiDAR計測
- カメラ撮影(映画・測量)
- 土砂災害の調査
- 警備巡回
タイヤ式より段差に強く、倒れにくいため、安全性の観点からクローラー式が採用されるケースが多くなっています。
第10章|用途拡大の背景|2020年代の3大トレンド
10-1 自動化・ロボティクス化の加速
社会全体で労働力不足が深刻化し、自律走行ロボット・スマート機器が急増。
ロボットに必要な走破性・安定性の要求が高まり、クローラー採用が増加。
10-2 スマート農業関連の政策支援
農林水産省・NEDO等の実証事業で、クローラー式の自動草刈りロボットや搬送ロボットが多数活用されている。
10-3 環境保全・低騒音ニーズの高まり
インフラ点検・観光地・都市部では「静粛性」が重要で、ゴムクローラーは騒音が小さく選ばれやすい。
第11章|ゴムクローラー市場は今後も拡大が予測される
農業・スマート農業・ロボット・防災といった分野が市場成長を後押ししています。
特に “ロボット×クローラー” の組み合わせは2020年代最大の成長領域です。
- UGV(無人地上車両)
- 自律走行点検ロボット
- 農業ロボット
- 警備ロボット
- 災害対応ロボット
これらは今後10年で大きく普及すると予測されています。
まとめ|ゴムクローラーは「建設業界」から「ロボット・農業・インフラ」へと用途が拡大中

ゴムクローラーはもはや建設機械だけのものではなく、
スマート農業・ロボット・災害対応・水産業・観光・インフラ点検
など、幅広い分野で普及が進んでいます。
特に自律走行ロボットやスマート農業分野では、今後も需要増が確実で、関連メーカーやユーザー企業にとっても大きなビジネスチャンスとなる領域です。
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